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木曜日, 5月 19

船越の記事(河北新報)

河北新報5月19日版に、船越の記事が掲載されました。

ウェブ上でも「Kahoku Online Network」において、閲覧することができます。

「古里にカエル」夢見て/海産物店経営・三浦慶市さん(59)=石巻市雄勝町

team SAKE 足立


~~~以下掲載記事~~~


「古里にカエル」夢見て/海産物店経営・三浦慶市さん(59)=石巻市雄勝町


◎守り神に願掛け店再開

 店の前に鎮座するのは巨大なカエルの石像。背中にかわいらしい5匹の子ガエルが乗っている。
 「全部で6匹いるから『ムカエル』。お客さんをムカエル、幸せをムカエル…。開業の時に縁起担ぎで造園業者から買った、店の守り神なんだ」
 石巻市広渕に開いている海産物店で、経営者の三浦慶市さん(59)が表情を緩めた。このカエルが、3月11日の東日本大震災で折れそうになった心を励ましてくれたのだという。
 広渕は仮設店舗。三浦さんは旧宮城県雄勝町の石巻市雄勝町船越で生まれ、地元の浜で25年前から「みうら海産物店」を妻寿美子さん(56)と2人で営んできた。
 三陸の海で採れたウニやホタテ、アワビを水槽に入れて販売し、自宅に併設した工場では昆布やワカメなどを加工、パック詰めにして、各地に配送してきた。豊富な種類と新鮮さに、北海道や関東からも注文が来た。
 地震に襲われたのは、三浦さんが旧雄勝町の外へ出て配達をしている時だった。約130世帯の船越地区は、高台を残して全域が津波にのまれた。三浦さんの店や工場、家もすべて流され、従業員6人のうち1人が犠牲になった。

 生活の場を失い、住民は次々と旧雄勝町から移っていった。高齢者が多く、再起する気力さえ失う人もいた。地道に積み重ねた財産をすべて奪われた三浦さんも一時廃業を考えた。
 その時、「商売を続けるなら、空いている土地を貸そう」と古い友人が声を掛けてくれた。船越から30キロほど離れた広渕地区の山あいだった。
 「裸一貫で出直すことに不安もあった。ただ、妻も従業員も『やるならついていく』と言ってくれた。一人でも力になってくれる人がいる限り、頑張ろうと思った」
 再出発の場所にプレハブ小屋やコンテナなどを運び入れ、仮設店舗と商品の保管倉庫にした。
 被災を免れた海産物加工品のほか、他地域からも商品を取り寄せ、5月初めに何とか店開きした。
 船越の住民としては第1号の営業再開だった。

 創業以来、店の前で商売を見守ってきたカエルの石像は、トラックで仮設店舗の前へ運ばれた。
 津波で10メートルほど流されたが、ほぼ無傷だった。初心にカエル。「商売を始めたころの熱い気持ちを思い起こさせてくれた」と三浦さんは言う。
 「海のものは、海の近くで売ってこそ価値がある」が信念。旧雄勝町から避難し散り散りになった住民と、一日も早く古里に戻れる日を夢見る。
 そのため「漁業者の仮設番屋や、雄勝硯(すずり)など特産品を売る商工業施設を旧町内の港に建てたい」。公的制度を活用し、復興のシンボルにもなる事業の要望書をまとめ、三浦さんは先日、地元商工会に出した。
 「船越は、磯の資源が豊富で本当にいい所なんだ。いつも願を掛けている。必ず『古里にカエル』って」。震災前と少しも変わらない「守り神」に目を細め、慣れ親しんだ海を心に描いた。
(成田浩二)


2011年05月19日木曜日

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